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今月の実務の動き 今月の実務の流れがわかる

人事労務について、最近の注目すべき点や改正などの情報をお届けいたします。

退職勧奨と出向

2015年8月20日 掲載

 出向は様々な目的で行われますが、その中の一つとして、経営不振等の際に雇用維持のため関連会社に出向するという例があります。近年、このような出向について、事例判断ではありますが違法と評価した裁判例があります。今回は同事例を紹介いたしますが、その前に、まずは出向を巡る基本的な問題点について概観します。
 
 出向に関する問題としては、まず、労働者の同意なく出向を命じることができるのか、すなわち出向命令権が認められるのかという問題があります。そして、出向命令権が存在するとしても、個別の出向命令が権利の濫用として違法となることはないかという問題があります。さらに、別の観点からの問題として、当該出向が、職安法が禁止している労働者供給に該当しないかという問題があります。
 
 出向命令権に関しては、事例判断ではありますが、新日本製鉄事件(最判平15.4.18)、就業規則上の根拠規定があり、かつ、労働協約において、社外勤務の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金、各種の出向手当、昇格・昇給等の査定その他処遇等に関して出向労働者の利益に配慮した詳細な規定が設けられている等といった事情を前提に、出向命令権を認めています。
 そして、同判決は、個別の出向命令が権利の濫用に該当するかという問題に関して、業務上の必要性、人選の合理性、労働条件等に関する不利益の程度等を勘案した上で、適法と判断しています。
 
 次に、職安法との関係ですが、出向が業として行われる場合には職安法の禁止する労働者供給に該当することになります。厚生労働省が作成した労働者派遣事業関係業務取扱要領によれば、次の①~④の目的で行われる出向は、「社会通念上業として行われていると判断し得るものは少ないと考えられる」とされており、具体的には、①労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する、②経営指導、技術指導の実施、③職業能力開発の一環として行う、④企業グループ内の人事交流の一環として行う等の目的を有している場合とされています。
 
 前置きが長くなりましたが、出向に関する基本的な問題は上記のとおりとなります。そして、上記労働者派遣事業関係業務取扱要領が挙げている「①労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する」という目的に基づく出向に関して、適法性が争われ、裁判所において違法と判断された例が、リコー事件(東京地判平25.11.12)です。
 
 同事件では、希望退職への応募を断った労働者に対して出向を命じたところ、権利の濫用により違法とされました。判決は、出向命令権については、就業規則上に根拠があること、出向先での労働条件・処遇に配慮する旨の規定があること等を理由に、権限があるとしました。その上で、個別の出向命令に関して、業務上の必要性は認めたものの、人選の合理性が認められないとして、権利の濫用にあたり違法としました。人選の合理性について、余剰人員を6%と見積もった根拠が不明確で、競合他社と比較した売上に対する人件費率の目標値から機械的にはじき出した数値に過ぎないとうかがわれること、また、人選基準である「業務効率が資格及び給与に見合わない、又は削減しても業務上支障のない人材」は、基準の合理性、過程の透明性、人選作業の慎重さや緻密さに欠けていたとし、加えて、余剰人員の人選は、事業内製化を一次的な目的とするものではなく、退職勧奨の対象者を選ぶために行われたものとみるのが相当であるとして、人選の合理性を否定したものです。また、出向命令によって労働者が被る不利益の程度についても、出向先での作業は立ち仕事や単純作業が中心であり、これまで一貫してデスクワークに従事してきた出向者らのキャリアや年齢に配慮したものとは言い難く、身体的にも精神的にも負担が大きい業務であることが推察されるとしました。そして、本件出向に関して、事業内製化による固定費の削減を目的とするものと言い難いこと、人選の合理性を認め難いことに照らせば、人事権の濫用として無効になると評価しています。
 
 余剰人員の雇用を確保するために関連会社等へ出向することは、出向の目的としては正当なものであり、このことは、上記労働者派遣事業関係業務取扱要領が挙げている「①労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する」という目的にも沿うものです。しかし、これまでのキャリアをことさらに無視するような業務を命じる出向は、やはり労働者の被る不利益の程度や目的の正当性といった点から疑念が生じかねないため、違法と評価されるおそれがあります。
 
 人件費の削減、雇用維持等といった目的による出向は、労働者に与える影響も大きなものとなる可能性があるため、業務上の必要性、人選の合理性、労働者のキャリアに対する配慮その他不利益の程度に対する配慮、出向に至る手順・手続きに十分配慮した上で行う必要があるでしょう。近年、労働者のキャリアを無視するような形での配置転換等が違法と評価される例もあるため、いわゆる窓際に追いやるかのような人員配置・出向とならないように注意することが重要です。
 
 
 
 

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