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ZEIKENPLUS 2010 Summer

資産除去債務 将来の負担を顕在化
文=週刊経営財務編集部

2012年春の開業を目指して、目下建設中の東京スカイツリー。完成すると地上634メートル、自立式電波塔としては世界一の高さになります。工期3年、建設費約400億円のビッグプロジェクト。建設途中にもかかわらず、観光客が訪れるなど東京の新しい観光スポットになっています。
ところで、完成前から取り壊す話をするのもヘンですが、完成後の東京スカイツリーを解体するには、いったいどれくらいの費用がかかるのでしょうか。まったく想像もつきませんよね。実際に解体するのは、100年以上先の話になるのかもしれません。100年後には解体技術が進歩して、簡単に取り壊すことができるようになっているかもしれませんが、現在の技術では、相当の期間と費用がかかりそうです。
今回のテーマは、このような解体費用や撤去費用など企業が負う将来の負担を財務諸表に反映させようというコンセプトで会計上のルールが作られたという話です。

1 資産除去債務とは何か

解体費用や撤去費用など企業が負う将来の負担を財務諸表に反映させようという考えは、すでに米国で導入されているルールです。日本においても、国際的な会計基準のコンバージェンス(注1)の一環として導入されました。「資産除去債務に関する会計基準」という会計基準が企業会計基準委員会(ASBJ)により開発され、この4月から主に上場会社に対して適用が義務付けられています(注2)。 会計基準では、一定の要件を満たし、資産除去債務に該当する場合は、決められた方法により会計処理することを求めています。資産除去債務の定義は、「有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令または契約で要求される法律上の義務およびそれに準ずるもの」と規定されています。法律や契約で有形固定資産(建物、構築物、附属設備等)の除去が義務付けられていることがポイントです。具体的には、次のようなものが考えられます。
①定期借地権に係る原状回復 義務
②賃借建物に係る原状回復義務(造作等の除去義務)
③石油、天然ガス、鉱山等の採掘施設の原状回復義務
④原子力発電施設の解体撤去などの後処理義務
やはり、多くの企業に関係するのが、①や②の原状回復義務ではないでしょうか。
最近増加している大規模ショッピングモールなどの郊外型店舗で定期借地権が利用されているケースがよくみられます。また、地方では、自治体が主体となって事業用定期借地権を活用した工場誘致を行っているケースも珍しくありません。こうしたケースでの原状回復義務は、資産除去債務の対象となります。幅広い業種に影響してきそうです。
東京お台場の観光名所になっている大観覧車。その観覧車がなくなるかもしれないというニュースは記憶に新しいところです。観覧車があるパレットタウンと呼ばれる商業施設は、1999年に東京都が契約期間10年の定期借地契約により貸し付けた土地に建設されています。報道等によれば、契約満了時に借主側に払い下げる計画もあるようですが、仮に返却する場合には、原状回復義務があるようですので、借主は更地に戻して返却することになります。資産除去債務会計基準の導入が数年早ければ、計上対象になっていたかもしれません。
④の原子力発電施設の解体費用は多額になるため、日本においても、発電実績に応じて「解体引当金」を計上するような実務が過去から行われています。例えば、東京電力は約5千億円の引当金を計上しています。ビルや工場の解体費用とは比較にならないほどのインパクトがあります。 なお、有形固定資産の除去が企業の自発的な計画のみによって行われる場合は、資産除去債務には該当しません。自社の土地に工場やビルを建設しているようなケースです。工場等の除去が法令や契約で決められていないためです。
ここで、東京スカイツリーに話を戻しましょう。東京スカイツリーの建設地が自社の土地であれば、資産除去債務の対象ではありません。借地に建設しており、原状回復義務がある場合には、資産除去債務の対象になります。実際には、自社グループの土地に建設しているようです。

2 除去義務だけでなく「特別な方法による除去」も対象

会計基準では、このような法律や契約等による除去義務に加えて、有形固定資産に使用されている有害物質等を「法律等の要求による特別の方法で除去するという義務」も含まれます。例えば、アスベストです。アスベスト自体に除去義務はありませんが(注3)、除去方法が法令で定められています。建物にアスベストを含む建材が使用されている場合には、その作業の危険度に応じて、特殊な方法で作業しなければなりません。結果、通常の解体費よりも多く費用を要することになるため、その費用についても資産除去債務として認識することになりました。

3 会計処理は資産と負債の両建て処理

では、具体的な会計処理方法を確認します。会計処理は、将来負担する金額を「資産除去債務」として負債に計上し、同額を有形固定資産の取得原価に加える処理を行います(下の仕訳参照)。
借方と貸方の双方に貸借対照表科目が計上される「資産・負債両建て方式」というこれまであまり馴染みのなかった会計処理方法を採用しているのが特徴です。資産除去債務認識時から除去までに行う会計処理の流れは次の通りです。資産除去債務は、有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価値)で算定します。
(借)有形固定資産 XXX/(貸)資産除去債務 XXX
〈会計処理の流れ〉
①資産除去債務を負債に計上する(有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価値)で算定する)。
②負債の計上額と同額を、関連する有形固定資産の帳簿価額に加える。
③資産計上された資産除去債務に対応する除去費用は、減価償却を通じて、当該有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分する。
④決算期末には、資産除去債務を時の経過により増額させる。増加額を利息費用として処理する。

4 見積りが容易ではないケースも~エンパイア・ステート・ビルは築80年!

会計処理を行うには、除去費用がどれくらいになるかというものを見積もらなければなりません。企業の実務担当者からは、容易ではないケースもあるという声を聞きます。ある企業では、会計基準の適用準備にあたり、店舗の撤去費を数社の解体業者に見積もりをとったところ、三者三様の金額が届き、なんと2倍ほどの開きがあったそうです。規模の小さな建物ですらバラつきが出るくらいですから、高層ビルなどの大規模建築物になればなおさら難しいかもしれません。それは、「将来の最終的な除去費用を見積ることが困難」というだけでなく、「資産除去債務の履行時期を予測することが困難」ということも考えられます。例えば、ニューヨークのマンハッタンには、100棟以上の高層ビルがあり、築50年以上というビルも珍しくありません。代表的な高層ビルであるエンパイア・ステート・ビルディングは築80年です。しかも、そのビル群の中での解体実績もあまりないようです。高層ビルなどは、除去費用に加え、その除去時期の予測が困難な最たる事例かもしれません。
近年、会計基準のコンバージェンスにより、日本の会計基準に見積りの要素を含む会計基準が順次導入されており、今後も、実務担当者の頭を悩ませそうです。

(注1)日本の会計基準と国際的な会計基準(IFRS、米国基準など)との差異を縮小していこうという動きです。企業会計基準委員会(ASBJ)は、2005年3月に国際会計基準審議会(IASB)と共同でコンバージェンスプロジェクトを開始しました。2006年3月には、作業を加速することに双方が同意し、2007年8月にASBJとIASBの共同声明として「東京合意」が公表されています。なお、「資産除去債務」は、2006年3月に短期プロジェクト項目として追加され、基準化が進められました。
(注2)適用対象は、①金融商品取引法の適用会社およびその子会社・関連会社、②会計監査人を設置する会社およびその子会社、です。
(注3)増・改築時には除去義務があります(一定の要件を満たす場合には、飛散防止措置も可)。

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