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ZEIKENPLUS 2011 Winter

IFRSで経常利益がなくなる!? 「包括利益基準」について

はじめに
企業会計基準委員会から、「包括利益の表示に関する会計基準」(以下、「包括利益基準」)が公表されました。平成23年3月31日以後に終了する事業年度の年度末に係る連結財務諸表から、包括利益を表示することになります。 この会計基準はまず連結財務諸表に適用されますが、個別財務諸表への適用については、企業会計審議会における個別財務諸表の在り方に関する審議の状況を踏まえたうえで、本会計基準の公表から1年後を目途に判断することとするとしています。
現在までの会計制度における利益概念(経常利益、当期純利益…)とはどのような関係になるのでしょうか。また、包括利益とは、そもそもどのような利益を表しているのでしょうか。

Q1 包括利益基準とはどのような基準ですか。
導入の背景やその考え方はどのようなものですか。

(1)純資産の変動額のうち「資本取引以外」によるもの

図1

「包括利益」とは、ある企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分をいいます。「持分所有者との直接的な取引によらない部分」というとわかりにくいですが、わかりやすく言い換えますと、純資産の変動額のうち「資本取引以外」によるものです。
例えば、当期純利益が発生すると、その他利益剰余金のうちの繰越利益剰余金の増加を通じて純資産が増加します。当期純利益による純資産の増加は、資本取引以外によるものですから、包括利益に算入されます。また、その他有価証券の時価評価により純資産が増減しますが、それは資本取引以外によるものですから、包括利益に算入されます。
一方、株主からの増資の払込みが行われることにより、資本金が増加し、純資産も増加しますが、それは資本取引によるものですから、包括利益には算入されません。また、株主に対して剰余金の配当を行うことにより純資産は減少しますが、それは資本取引によるものですから、包括利益には影響しません。
図1に示すように、純資産の変動額は様々な要因に基づいていますが、大きく分けて資本取引によるものと資本取引以外によるものに大別されます。包括利益は、そのうちの資本取引以外によるものです。

(2)包括利益の考え方(企業全体の事業活動について検討するのに役立つ利益概念)
包括利益の考え方は、もともと国際会計基準における「資産・負債アプローチ」の考え方に基づいています。すなわち、包括利益を表示するそもそもの目的は、期中に認識された取引および経済的事象(資本取引を除く)により生じた純資産の変動を報告することです。ある期間における資本の増減(資本取引による増減を除く)が当該期間の利益と等しくなる関係を「クリーン・サープラス関係」といいますが、その関係を明示することにより、財務諸表の理解可能性と比較可能性を高めることになるものと認識されています。
もちろん包括利益の表示によって提供される情報は、投資家等の財務諸表利用者が企業全体の事業活動について検討するのに役立つことが期待されるものであって、従来からの当期純利益に関する情報の有用性は何ら変わるものではありません(注1)。また、経常利益が企業の業績を理解するうえで重要視される点も、従来どおり変わらないものと思われます。
ただし、これまでの当期純利益以外のもので包括利益に含まれるもの(=その他の包括利益といいます)が表示されることにより、例えばその他有価証券評価差額金の変動によって純資産がどれだけ増加または減少したのか、為替相場の変動による為替換算調整勘定の変動によって純資産がどれだけ増加または減少したのかなどが明示され、財務政策なども含めた企業活動の状況がより全体的に理解しやすくなる面はあるように思われます。

(注1)
包括利益基準22項では、「包括利益の表示の導入は、包括利益を企業活動に関する最も重要な指標として位置づけることを意味するものではなく、当期純利益に関する情報と併せて利用することにより、企業活動の成果についての情報の全体的な有用性を高めることを目的とするものである。本会計基準は、市場関係者から広く認められている当期純利益に関する情報の有用性を前提としており、包括利益の表示によってその重要性を低めることを意図するものではない。」とされています。

Q2 これまでの日本基準の財務諸表と異なる点を教えてください。

(1)連結財務諸表上の表示に注意が必要
包括利益とは、個別財務諸表の場合は当期純利益(注2)、連結財務諸表の場合は少数株主損益調整前当期純利益にその他の包括利益(その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定等)を加算した利益概念です。
ここで連結財務諸表上の包括利益は、少数株主損益調整前当期純利益にその他の包括利益を加算したものであるとされています。「少数株主損益調整前当期純利益」の表示は、平成22年4月1日以後の連結会計年度から適用が始まっているものであり、当期純利益のうち親会社に帰属する金額と少数株主に帰属する金額を合計したものです。
なぜ連結財務諸表上の包括利益は、少数株主損益調整前当期純利益をベースとして、それにその他の包括利益を加算するものとしているのでしょうか。実は、包括利益は、親会社株主に係る金額と少数株主に係る金額を両方とも含んだ利益です。Q1において、包括利益が純資産の変動額のうち当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分(=資本取引以外によるもの)である旨の説明をしましたが、「純資産に対する持分所有者」としては当該企業の株主のほか当該企業の発行する新株予約権の所有者が含まれ、連結財務諸表においては、当該企業の子会社の少数株主も含まれます。少数株主との直接的な取引は包括利益から外れますが、直接的な取引によらない部分は包括利益に算入されます。したがいまして、当期純利益(親会社株主に係る金額)ではなく、少数株主損益調整前当期純利益(親会社株主に係る金額+少数株主に係る金額)をベースとします(図2参照)。
なお、Q3の記載例にもありますように、包括利益のうち、親会社株主に係る金額および少数株主に係る金額の内訳は、付記しなければならないとされています。

図2
図2

(2)「その他の包括利益」が表示される点が異なる
これまでの日本基準による財務諸表では、連結損益計算書および損益計算書ともに、当期純利益までを表示し、その他の包括利益はどこにも表示されていなかったわけです。包括利益基準適用後の財務諸表においても、当期純利益が表示されなくなるわけではありません。従来どおり当期純利益が表示され、それに加えてその他の包括利益も併せて表示され、両者のトータルとしての包括利益が表示されます。先ほど説明しましたように、当期純利益に関する情報の有用性をベースにしたうえで、その他の包括利益も併せて表示することにより、企業活動の成果についての情報の全体的な有用性を高めることが意図されています。
個別財務諸表においては、当期純利益にその他の包括利益の内訳項目を加減して包括利益を表示します。連結財務諸表においては、少数株主損益調整前当期純利益にその他の包括利益の内訳項目を加減して包括利益を表示します。また、その他の包括利益の内訳項目は、その内容に基づいて、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定等に区分して表示します。後で説明しますが、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定のいずれについても、税効果会計適用後の数字を記載します。
なお、持分法を適用する被投資会社のその他の包括利益に対する投資会社の持分相当額は、一括して区分表示しなければなりません。例えば持分法適用の被投資会社(投資会社の持分比率が20%)がその他有価証券を所有していて、その他有価証券評価差額金が(税効果調整後で)300増加したとします。その場合、「持分法適用会社に対する持分相当額」として60(300×20%)を表示します。
連結財務諸表上の記載例については、次のQ3で取り上げます。

(3)その他の包括利益の内訳項目は税効果控除後の金額で表示
その他の包括利益の内訳項目は、税効果を控除した後の金額で表示します。ただし、各内訳項目について税効果を控除する前の金額で表示して、それらに関連する税効果の金額を一括して加減する方法で記載することもできるとされています。いずれの場合も、その他の包括利益の各内訳項目別の税効果の金額を注記しなければなりません。
例えばその他有価証券評価差額金が100増加したものとします。法定実効税率が40%であると仮定しますと、100×40%=40を控除した60がその他の包括利益に表示されることになります。税効果相当額の40については、繰延税金負債の金額の変動になっており、純資産の変動ではありませんので、包括利益には算入されません。

(注2)
包括利益基準の個別財務諸表への適用は、本基準公表から1年後を目途に判断するものとされていますので、当面は適用されませんが、包括利益基準自体は連結および個別双方の取扱いを定めています。したがいまして、本稿では個別財務諸表上のルールなどについても記述しています。

Q3 包括利益基準の財務諸表の様式(表示例)はどのようになりますか。
また、現状の財務諸表と比較してどのような点が異なりますか。

包括利益の表示方法は、2通りあります。①1計算書方式(単一の計算書で表示する方式)と②2計算書方式(損益計算書と包括利益計算書の2つの計算書を作成する方式)の選択が認められており、どちらの表示方法を選択してもよいとされています。
それぞれの様式例は、下のとおりです。
右側が1計算書方式、左側が2計算書方式です。
1計算書方式は、当期純利益までの表示は、連結損益計算書と実質同じですが、その当期純利益に「少数株主利益」を加算した数字=少数株主損益調整前当期純利益を表示して、それに対して「その他の包括利益」を加算します。「その他の包括利益」について内訳項目を表示する必要がある点は、次の2計算書方式も同様です。
2計算書方式は、「連結損益計算書」と「連結包括利益計算書」を別々に作成します。「連結損益計算書」については従来とまったく同様です。「連結包括利益計算書」は、少数株主損益調整前当期純利益をスタートとし、それに「その他の包括利益」を加算する形式で表示します。「その他の包括利益」については、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定などの内訳項目を表示する必要があります。
なお、先に説明しましたように、連結財務諸表においては、包括利益のうち親会社株主に係る金額および少数株主に係る金額を付記する必要があります。

様式例

Q4 包括利益基準は、いつから適用されますか。
また、当面は連結財務諸表について適用とのことですが、会社法における連結計算書類には適用されるのでしょうか。
さらに、包括利益基準が適用された場合、中小企業会計に及ぼす影響はありますか。

(1)適用時期
包括利益基準は、平成23 年3月31日以後終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から適用されます。ただし、平成22年9月30日以後に終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から適用することができるものとされています。四半期からではなく、年度末から適用される点に留意する必要があります。

(2)会社法の連結計算書類の取扱い
会社法においては、平成22年9月30日付会社計算規則の改正により、会社法導入時にいったん包括利益基準の導入を見越して「待ち受け規定」として規定されていた包括利益に関する規定を削除しました。その改正案の法務省からの公表にあたり、「包括利益に関する計算書の作成を求めるかどうかについては、包括利益に関する情報の株主・債権者にとっての有用性の程度等が明らかとなった将来において、改めて検討する予定である。」と説明がされています。したがいまして、会社法においては、包括利益の表示は将来の検討事項として見送りとなりました。ただし、任意で参考情報として作成・開示することは問題ありません(注3)。

(注3)
参考情報として作成・開示する場合は、1計算書方式または2計算書方式のいずれも認められます。

(3)中小企業会計への影響
中小企業庁が、「中小企業の会計に関する研究会」を立ち上げ、中小企業の会計のあり方についての議論が進められています。本年9月には「中間報告」が公表されましたが、今後中小企業向けの会計基準が策定されることになるものと見込まれます。
その「中間報告」の中で、「中小企業では、会計情報の開示が求められる範囲は、取引先、金融機関、同族株主、税務当局等、限定されていることに加え、経理担当者の会計に対する知識や人員体制が必ずしも十分ではない場合が多いという実態がある。また、資本市場を通じて外部の投資家から資金調達を行うことは殆どない。
また、中小企業が行う会計処理については、法人税法で定める処理との調和が特に要請される。すなわち、中小企業では、実態として主に法人税法で定める処理を意識した会計処理が行われている場合が多いため、IFRSの適用やIFRSへのコンバージェンスによる影響に伴って、日本国内の会計基準と法人税法に基づく課税所得の計算方法との乖離が進展し、確定決算主義の維持が困難な状況になると、中小企業に多大な負担が生じることとなる。」と記述されています。
法人税申告書は、確定決算に基づく当期純利益をベースとして、税務調整を加えて課税所得を算出する仕組みを採用しています。したがって、包括利益の表示は法人税申告書の実務には何ら必要ないものであり、主として投資家等の財務諸表利用者にとっての情報にほかならない位置づけとなります。また、その他の包括利益は、中小企業には発生しないケースがほとんどであると考えられます。そのような点から、包括利益の表示を中小企業に求める必要はなく、コスト・ベネフィットの観点から、中小企業には適用されないことになると考えられます。

Q5 導入後に、財務諸表作成担当者が留意すべき点は何ですか。

他の(連結)財務諸表への影響

(1)他の(連結)財務諸表への影響
包括利益基準では、「連結財務諸表上は、これまでに公表された会計基準等で使用されている「損益計算書」または純資産の部の「評価・換算差額等」という用語は、「損益計算書又は損益及び包括利益計算書」または「その他の包括利益累計額」と読み替えるものとする。」としています。すなわち、連結財務諸表上は、包括利益基準適用後においては、包括利益の表示が義務づけられることになるため、連結貸借対照表(の純資産の部)や連結株主資本等変動計算書においては、「評価・換算差額等」ではなく、「その他の包括利益累計額」と表示する必要があります。
また、会社法においては、包括利益の表示自体は見送りとされましたが、会社計算規則の規定の適用に関しては、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行をしん酌しなければならないため、包括利益基準を適用する会社については、包括利益基準がしん酌される結果として、連結貸借対照表および連結株主資本等変動計算書においては「その他の包括利益累計額」として区分することが義務づけられる点に十分な留意が必要です(注4)。

(注4)
新井吐夢(法務省民事局付)「会社計算規則の一部を改正する省令の解説 | 平成22年法務省令第33号 | 」経営財務No.2986、P.12。

(2)貸借対照表の増減額との関係
その他の包括利益の数字は、連結貸借対照表の純資産の部のうちの評価・換算差額等(改正後はその他の包括利益累計額)の増減額と一致するように思われがちです。しかし、その他の包括利益は、親会社株主に係る金額と少数株主に係る金額の両方が含まれますので、連結貸借対照表の純資産の部のうちの評価・換算差額等の増減とだけ突き合わせても一致しません。
例えば次のような前提条件であったものとします。
このように、連結貸借対照表の純資産の部のその他有価証券評価差額金は132増加し、少数株主持分が別途8増加します。一方、その他の包括利益の計上額は、親会社株主に係る金額132と少数株主に係る金額8の合計額140となります。単純に突き合わせても一致しないわけです。

コラム 「1計算書方式」と「2計算書方式」といずれが多く採用されるか?

「1計算書方式」は、連結損益計算書と連結包括利益計算書を結合して1つの計算書として作成する方法です。一方、「2計算書方式」は、連結損益計算書は従来どおりの内容で作成し、それとは別に連結包括利益計算書を作成する方法です。どちらを選択してもよいとされていますが、果たしてどちらが多く採用されるのでしょうか。 本会計基準導入後においても、従来どおり経常利益や当期純利益は重要視されるものと思われます。「その他の包括利益」をそれに加えて(追加して)明らかにするというスタンスをとるのであれば、「2計算書方式」の方がなじむようにも思われます。一方、IASB(国際会計基準審議会)とFASB(米国財務会計基準審議会)は、「1計算書方式」へ一本化する方向で検討を進めていますので、将来的には「1計算書方式」しか認められなくなる可能性があります。現状の企業のスタンスに則した開示を選択するのか、将来的な方向性を見据えた選択をするのか、悩ましい判断が求められるものと考えられます。アンケート調査の実施など、何らかの形で事前の動向を調査する必要性(ニーズ)もあるように思われます。

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