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ZEIKENPLUS 2011 Winter

「遡及処理」(過年度遡及会計基準)の概要と計算書類への影響
文=「週刊 経営財務」編集部

平成23年4月から始まる事業年度の期首以後、会計方針や財務諸表の表示方法を変更、あるいは過去の誤謬を訂正した場合、あたかも新たな会計方針や表示方法等を過去の財務諸表にさかのぼって適用していたかのように会計処理または表示を変更しなければいけません。この会計上の取扱いを財務諸表の「遡及処理」といい、国際会計基準(IFRS)や米国会計基準ではすでに導入されている手法です。
遡及処理が上場会社等に求められることになったのは、企業会計基準委員会(ASBJ)が「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、「過年度遡及会計基準」)を開発したからです。公表は21年12月4日。その狙いは、財務諸表の比較可能性を向上させるとともに、国際的な会計基準とのコンバージェンスを図ることにあります。
本稿では、日本の会計基準に初めて導入された「遡及処理」について、過年度遡及会計基準を踏まえながら、その概要(要否および方法)をご紹介するとともに、計算書類に与える影響について簡単にご説明します。

1 遡及処理の概要(要否および方法)

過年度遡及会計基準の対象は、「会計上の変更」と「誤謬の訂正」に大別されます。会計上の変更はさらに、(1)会計方針の変更、(2)表示方法の変更、および(3)会計上の見積りの変更に区分されます。同基準が規定する遡及処理の要否と原則的な取扱いは、図表1のとおりです。なお、同基準の適用は、連結財務諸表だけでなく、個別財務諸表にも及びます。

図表1
金融商品取引法の有価証券報告書における連結財務諸表

★会計上の変更

(1)会計方針の変更
会計基準等の改正に伴う変更と、それ以外の正当な理由による自発的な変更があります。変更した場合、原則として、変更後の会計処理方法を過去の財務諸表に遡って適用していたかのように会計処理します。これを「遡及適用」といいます。過年度遡及会計基準の最大のポイントです。遡及適用する場合、その影響額を、表示する財務諸表のうち、古い期間(当期となることもあり)の期首の資産、負債および純資産の額に反映させます。それ以後は変更後の会計方針を適用します。 具体的には、金融商品取引法上の有価証券報告書であれば、前期と当期の二期比較で開示するため、累積的影響額を前期の数値に反映させることになります。会社法上の計算書類であれば、単年度表示であるため、当期首の数値に反映させることになります。
会計方針をAからBに変更した場合を例として、金融商品取引法上の連結財務諸表の取扱いと会社法上の計算書類の取扱いを比較してみます(図参照)。
なお、変更した場合、会計方針の変更の内容や、過去の財務諸表の主要な表示科目に対する影響額などを注記します。

(2)表示方法の変更
当期の財務諸表と並行して表示する過去の財務諸表について、新たな表示方法に従い財務諸表の組替えを行います。その場合、組替えの内容や理由などを注記します。

(3)会計上の見積りの変更
遡及処理の対象とされません。現行実務と同様に、その影響を当期以降の財務諸表で認識します。「会計上の見積り」とは、資産・負債・収益・費用等の額に不確実性がある場合に、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること。その変更とは、新たに入手可能となった情報に基づいて行う、過去の見積りの変更をいいます。この変更が遡及処理の対象とされないのは、過去の見積り時点での情報に基づく判断が適切である限り、過年度の財務諸表を修正する必要はないと考えられるからです。
変更した場合は、変更の内容、変更が当期に影響を及ぼす場合には当期への影響額などを注記します。
この会計上の見積りに絡んで留意すべき点が以下の2つです。

(3)―① 臨時償却の廃止
臨時償却は、固定資産の耐用年数の変更等に関する影響額を一時に認識する方法(キャッチ・アップ方式)として、これまで認められていました。しかし、実質的に過去への遡及適用と同じ効果をもたらす処理となることから、新たな事実の発生に伴う見積りの変更に関する会計処理としては、適切な方法ではないとの指摘がありました。また、国際的な会計基準では、その採用は認められていないと解釈されています。結果、過年度遡及会計基準では、会計基準のコンバージェンスの観点も踏まえ、臨時償却を廃止し、固定資産の耐用年数の変更等については、当期以降の費用配分に影響させる方法(プロスペクティブ方式)のみを認める取扱いにしています。

(3)―② 減価償却方法の変更の取扱い
日本では、減価償却方法が会計方針の一つに挙げられており、その変更は会計方針の変更として取り扱われています。ですが、国際的な会計基準では、会計上の見積りと同様に取り扱い、遡及適用の対象とはされていません。これは、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難なケースの典型例といっていいでしょう。過年度遡及会計基準では、区別が困難な場合は、会計方針の変更に該当しても、会計上の見積りの変更と同様に取り扱い、遡及適用を求めないことにしています。ですから、有形固定資産の減価償却方法と無形固定資産の償却方法は、引き続き、会計方針に該当するものの、その変更には遡及適用を行わず、会計上の見積りの変更と同様、その影響を当期以降の財務諸表で認識することになります。

★過去の誤謬の訂正

従来、過去の財務諸表における誤謬が発見された場合は、その誤謬を前期損益修正項目として当期の特別損益で修正する方法が示されていました。それが、過年度遡及会計基準では、国際的な会計基準と同様、過去の財務諸表における誤謬を財務諸表に反映させることにしています。これを「修正再表示」といいます。この対象となる誤謬には、その原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報の不使用や誤用に起因する種々の誤りが含まれます。 なお、過去の誤謬の修正再表示を行った場合には、誤謬の内容や影響額などを注記します。 以上、遡及処理の概要(要否および方法)を簡単にご紹介しました。

2 会社法の計算関係書類への影響

(1)過去に承認済みの計算関係書類への影響
過年度遡及基準に従い、過去の誤謬の訂正に該当するものについて修正再表示という遡及処理が行われたとしても、確定済みの過年度の計算関係書類自体を修正したり、手続または内容の誤りのために未確定となっている過年度の計算関係書類を確定させるような効果を持つものではありません。したがいまして、手続または内容の瑕疵のために未確定となっている過年度の計算関係書類を確定させるためには、従来どおり、株主総会の決議など所定の手続により確定させる必要があることに変わりありません。

(2)当期の計算書類への影響
会社法の計算書類は、各事業年度において、当期の計算書類のみを開示し前期以前の計算書類は開示しません。このため、誤謬を発見し修正再表示を行う場合は、例外的に前期末の残高に前期までの会計上の遡及処理の累積的影響額を加算(または減算)した額を当期首の残高として用いて当期の会計処理を行うことが許される会計慣行が新たに成立したととらえることができます。
また、会計方針を変更した場合、過年度遡及基準に準拠し、変更後の会計方針を過去のすべての期間に遡及適用し、遡及適用による前期以前の累積的影響額を当期の期首残高に加減算します。

3 棚卸資産の評価方法の変更例からみる「遡及適用」の基本的な取扱い

以下の設例のように、当連結会計年度に棚卸資産の評価方法を総平均法から先入先出法に変更した場合、前連結会計年度の連結財務諸表について、先入先出法により遡及適用を行い、その数値を基に当連結会計年度の連結財務諸表を作成することになります。有価証券報告書のように前期と当期の二期を比較する連結財務諸表では、遡及処理後の前期連結財務諸表と当期連結財務諸表を開示します。

〈設例〉【前提条件】
(1) A社は当連結会計年度(X4年3月期)より、通常の販売目的で保有する棚卸資産(商品および製品)の評価方法を総平均法から先入先出法に変更した。
(2) 先入先出法を過去の連結会計年度から遡及適用する(原則的な取扱い)。
(3) 前連結会計年度(X3年3月期)の当該棚卸資産の増減について、先入先出法を遡及適用した場合の金額と、従来の方法である総平均法との差額およびそれに関する税金費用の影響は次のとおりである。なお、払出高はすべて販売に対応。
(4) A社の連結決算日は3月31日。法定実効税率は40%

〈設例〉

(a)前連結会計年度期首残高に係る修正仕訳 (b)前連結会計年度払出高に係る修正仕訳 (c)前連結会計年度期末残高に係る修正仕訳

(1)連結株主資本等変動計算書 (2)連結キャッシュ・フロー計算書

(3)連結損益計算書 (4)連結貸借対照表

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