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ZEIKENPLUS 2011 Summer

会計士 太田達也の 5分でわかる! 税務・会計 食べ放題の店はなぜ儲かるのか? 新日本有限責任監査法人・公認会計士 太田 達也

景気が悪くなると、ランチ・バイキングのお店の数が増えるようです。消費者の財布の紐が固いこの時代に、このようなお店を出店して本当に儲かるのでしょうか。その秘密はどこにあるのでしょうか。
会計の視点から、その儲かる仕組みを分析したいと思います。会計的な視点・発想から、その答えを解く鍵が見つかるかもしれません。

消費者の意識

消費者の意識

景気が停滞しますと、給料やボーナスもなかなか上がりません。企業は増益になるところもあるようですが、コストカットやリストラによって見かけ上の利益を出しているところも少なくなく、一般の会社員の可処分所得は中長期的な趨勢としては減っているのが実情です。最近のニュースによれば、子ども手当も今後打ち切りになる可能性があるようで、ますますお先が暗くなる一方のようです。
このような時代の消費者の食に対する意識はどうでしょうか。たとえ奥さんや子どもの誕生日であっても、フランス料理やイタリア料理などのお金のかかる高級レストランからは足が遠のくのが現実でしょう。また、普段の食生活に関しても、旦那さんの昼食が800円定食から600円定食(コンビニ弁当)になったり、夜のおかずが3品あったのが2品に減ったりと、十分に満たされていないケースも少なくないと思います。
こういう状況であるからこそ、たまにはバイキングでお腹を一杯にしたいというニーズが生じるものです。何十品もあるなかから好きなものを好きなだけ食べられる、デザートや飲み物まで自由という満足感をたまには味わいたいと考えるのが庶民の自然な欲求といえます。

バイキングの値付け?

バイキングで儲けるためには、この値付けという要素が重要なポイントになります。いかに食べ放題といえども、ランチ・バイキングにいくら支払ってもいいという人はいないでしょう。1回の食事に普段の何倍ものお金を払うことは通常は考えられないわけです。ランチ・バイキングの値段ですが、ズバリ1,500円プラス消費税程度が適度なレベルでしょう。食べに来るお客さんのほとんどは、たくさん食べて元を取ろうと考えて来るわけですから、高い値付けは禁物です。
問題は、この1,500円プラス消費税という値付けで、利益を出すという至上命題です。ここに会計の知識プラス少しばかりの原価計算の知識が必要になります(最初にお断りしますが、決してアカデミックなものではありません)。

原価率30%のライン!?

原価率30%のライン!?

レストランの原価率は、30%くらいが目安になるようです。原価率30%を達成して、ある程度の客数が確保できれば、利益が十分出るという目安なのかと思います。ただ高級店で、お昼は戦略的に高い原価率でもあえて質のいいものを提供することにより好印象を植え付けておいて、その分夜の食事で十分な利益を確保しているところもありますし(お酒が入ると原価率が低くなります)、チェーン展開しているところでは、大量仕入や人手の削減で原価率を低く抑えているところもあります。また、味の良さで勝負しているところでは、原価率35%くらいでもその分評判が高くなり、成功しているところもあるようです。
そこで、ランチ・バイキングの場合ですが、お客さんがたくさん食べるので高いと思われがちですが、原価率は決して高くないと考えられます。まず、大勢の人の胃袋を満たすだけの大量仕入を行いますので、仕入単価は当然低くなります。仕入数量は増加しますが、仕入単価は逆に低下しますので、トータルの仕入金額はそれほど増加しません。ここがポイントになります。
また、ランチ・バイキングはセルフ・サービスですから、お客さんの人数比の従業員数は通常よりも少なくて済みます。従業員の仕事は、出来上がった料理をお皿に運んだり、食べ終わった食器を運んだりという肉体労働が中心となりますので、それほど熟練した人を高い人件費で雇う必要がなく、アルバイトやパートを雇って人件費を安く抑えることができます。食べる量は通常よりも多くなりますので、トータルの原価率自体はそれほど極端に低くなるわけではありませんが、それほど高くもないというところが重要なポイントになります。
食べ放題の効果で、来客数は当然多くなります。売上高は増えますが、その金額ほど原価の金額は増えないという法則が働くわけです。そこに利益が捻出される秘密があるのです。それに対して、通常のレストランの場合の粗利は、来客数を25人とした場合に17,500円となっています。原価率30%でもそれほど儲かっていません(計算式①)
この粗利から、人件費、家賃、水道光熱費などを差し引くと、ほとんど儲からない場合もあります。
ランチ・バイキングの場合は、原価率30%が確保できれば十分な粗利が出ています(計算式②)。仮にラグビー部や相撲部の部員のような体育会系の大食いの人がたまたま訪れたとして、原価率が40%に跳ね上がったとしましょう(計算式③)
これでも十分な利益が出ることがわかります。利益を出すうえで、原価計算がいかに重要であるかがご理解いただけたかと思います。また、お客さんの回転が良いこと(=売上増)が、結果として粗利を増やすという点もご理解いただけるかと思います。

計算式①
1日の来客数が25人の場合(通常のレストラン・お昼)
売上高 ランチ定食1,000円×25人=25,000円
原価  原価率30%として 25,000円×30%=7,500円
粗利  25,000円-7,500円=17,500円
=============================================
計算式②
1日の来客数が60人の場合(ランチ・バイキングの場合)
売上高 ランチ・バイキング1,500円×60人=90,000円
原価  原価率30%として 90,000円×30%=27,000円
粗利  90,000円-27,000円=63,000円
=============================================
計算式③
売上高 ランチ・バイキング1,500円×60人=90,000円
原価  原価率40%として 90,000円×40%=36,000円
粗利  90,000円-36,000円=54,000円

在庫が残らないメリット大!

バイキングの強みはまだあります。レストランでは、材料を使い切らず処分することになってしまうことがよくありますが、その処分した材料の原価の分だけ利益が減ることを意味します。例えばオリジナルな1品料理を勝負にしているレストランがあるとします。せっせと食材を仕入れ、来店客数30人を目標に料理の準備(仕込み)に張り切っていたものとします。ところが、あいにくの悪天候で、さっぱり客足が伸びず、結局10人くらいしかお客さんが来店せずに、20人分くらいの材料が余ってしまったとします。次の日のメニューに支障なく使える場合は結果オーライですが、日替わりのメニューを出しているお店の場合は、そういうわけにもいきません。また、新鮮な食材に関しては、それはタブーです。結局材料が無駄になると、原価率が跳ね上がることになります。
ランチ・バイキングの場合はどうでしょうか。今日残ったキャベツは明日回鍋肉(ホイコーロー)かロール・キャベツの材料にしよう。今日残った豚肉は明日酢豚かトンカツの材料にしよう。今日残ったじゃがいもは明日肉じゃがの材料にしよう、というように無限に再利用ができるわけです。また、経営的な観点から重要なポイントは、料理済みでお皿に盛ったものは残っても再利用できませんので、お皿の料理が無くなりそうなタイミングをうまくつかまえて料理を補充するという点です。もっともご飯を炊きすぎて余った場合は、翌日チャーハンにできますが…。材料を残さずきれいに使えれば、それだけ原価率が低くなります。このメリットも無視できません。

ホテルの朝食はなぜビュッフェスタイルなのか?

私ごとですが、出張する機会が多くホテルの朝食をいただくことが少なくないのですが、ほとんどビュッフェ・スタイルです。これは、すでに説明させていただいた内容から、謎が解けます。ある程度の限られた時間帯に多くのお客さんが来ます。それに対して必要最低限の人員で対応できます。また、お客さんが異なったメニューをばらばらに頼むと、材料の在庫管理も難しくなりますが、ビュッフェ・スタイルですと、先ほど説明しましたように、在庫を残すリスクが減ります。そのような様々な要因から、ビュッフェ・スタイルが採算上有利なのかと思われます。ただその地元の特色のあるようなものを織り交ぜたりして工夫をしているところも多く、決してお客さんに飽きられるわけでもありません。

フレンチ・パラドックス!?

フランス料理は値段が高く、さぞ儲かるように思われるかもしれません。フレンチ・パラドックスとは、お肉をよく食べるフランス人に心臓病が少ないという意味で用いられる言葉ですが、ここでは異なった意味で用いています。一見儲かるように見えて、実は儲からないという意味です。
フランス料理はお肉を使うケースが多く、また、上等なお肉でないと舌が肥えたお客さんが満足しません。上等なお肉を使うことにより、原価率が高くなるのが一般的のようです。また、よほど評判が良く、固定客がついているような有名店はともかくとして、客数も毎日平均的に確保できるというわけでもありません。経営的には難しいかもしれません。ただワインを飲むお客さんが多いので、そこで何とか粗利を確保しているケースもあるようです(ワインについては、酒屋で売っている値段と、同じ銘柄・年代のワインのお店で売っている値段を比較すれば、一定の粗利が確保できていることがわかります)。
それに対して、イタリア料理は、原価率がフランス料理よりも低いようです。特にパスタの原価率は明らかに低いので、パスタ・ランチは利益を出しやすいようです。

結局バイキングで元は取れたのか?

ここからは本題からそれますが、結論としてランチ・バイキングでお腹一杯食べて、元はとれたのでしょうか。先ほどの売価と原価との関係をみても、どうも元が取れているように見えません。原価率30%という数字をみると、損をしたように見えてしまいます。
ただ、バイキングのようにたくさんのお料理を作って、そのなかから自分の食べたいものを食べたいだけ食べられるということ自体、現実的に家庭ではなかなかできません。お店という器があって、そこに料理がうまくて手際の良いコックさんがいて、それを運んでいただいてと、そこまでのプラスアルファがあって、楽しめる世界です。原価率の数字だけみて、得した、損したという発想よりも、もっとおおらかに楽しんでみてはいかがでしょうか。

【ウェブ限定番外編】1番儲かるのはどの業態?

本編の中で、フランス料理が意外に儲からないことを説明しました。では、飲食店で儲かるのはどのような業態でしょうか。

蕎麦屋は儲かる?
おいしいお蕎麦屋で、よく通っていたところがありました。お昼は結構人気があり、繁盛していたように見えましたが、閉店していました。そのような経験が過去にもあります。おいしいと評判で相応のお客さんが入っていたにもかかわらず、なぜつぶれてしまうのでしょうか。おそらくおいしいと評判になるようなお蕎麦屋の場合、蕎麦粉と小麦粉の割合で、蕎麦粉の割合がある程度高いのかと思います。蕎麦屋の原価率は、一般には30%くらいと言われていますが、そのようなお店の場合は、もっと高いものと思われます。自家製麺のほうが、低コストで高い品質が得られるので、自家製麺でやっているところも少なくありません。それに対して、最近よく見かけるチェーン展開している某お蕎麦屋の場合は、原価率13%であるとホームページで記載しています。そのような低い原価率のお店は確実に儲かっていると思います。

たこ焼き屋は儲かる?
たこ焼き屋の原価率は小麦粉を使っているので低いように思われがちですが、それほど低くないようです。30%前後のところが多いようです。また、たこ焼きの粉は保存がきくので在庫処分というリスクも少ないように見えますが、お客さんを待たせないように常に焼いているので、ロスが出るようです。参入障壁が特に低いので(作り方を少し練習すれば、少ない資金で開業できる)、問題は立地、味です。売上が上がらないことには儲からない業態だといえるでしょう。

ラーメン屋は儲かる?
ラーメン屋の原価率は低いように思われがちですが、実際には25%から35%くらいのようです。以前は原価率がもっと低かったようですが、最近のラーメンは競争の激化もあり、材料にお金をかける傾向にあり、30%以上の原価率のところも珍しくないようです。原価率を下げるために、(餃子などの)サイドメニューを併せて提供するように努力しているお店も少なくないようです。それでもある程度の人気店になると、売上も上がりますので、原価率30%であれば、人件費、家賃、諸経費を引いても利益が出るようです。ただ味が良くてある程度人気が出ないともちろん儲かりません。その人の能力と努力次第といえるでしょう。

人気メニューを作る!?
飲食店で成功するコツは、人気の定番メニューを作ることであるといえます。人気メニューを作ることで、材料の廃棄ロスを抑えることにつながり、また、品質が安定するメリットが生じます。注文される商品がばらばらですと、それだけ色々な材料をストックすることになり、材料の廃棄ロスが高まり、結果として原価率が高くなると考えられます。メニューを豊富にすることはお客さんに喜ばれるように見えますが、そのようなロスを生む原因となり、結果としてはお客さんにもマイナスになることも考えられます。

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