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ZEIKENPLUS 2012 Winter

会計士 太田達也の 5分でわかる! 税務・会計 円高は本当に悪いのか?~常識の中に潜む誤解を読み解く~ 新日本有限責任監査法人・公認会計士 太田 達也

最近、円高がかなり進行しており、日本の輸出産業にとって打撃であり、日本経済の先行きが深刻であるとの報道がよくされています。はたして円高は日本経済にとって本当にマイナスなのでしょうか。為替介入して阻止することが日本にとって本当にプラスなのでしょうか。常識の中にえてして誤解が潜んでいるもので、私にはこの円高もその1例であるように思えてなりません。今回は、円高について考えてみたいと思います。
(2011年11月15日現在の情報で執筆)

ドル=基軸通貨?

ドル一極体制の崩壊は、1985年のプラザ合意のときにすでに表れていたと考えることができます。当時のレーガン政権下における高金利政策により実力以上にドルの価値を上げた結果、経常収支の赤字を招くという悪循環が発生していましたが、その状態が維持できなくなったということです。米国は自国通貨の決定能力をその時点ですでに失っており、各国がドル高是正に合意したことを意味します。
ドル安になることにより、日本のような対外債権国から米国への輸出は目減りし、米国の対外債務も目減りするということになります。ドル本位制のもとでは、米国以外の国の対外資産が増加して、米国の対外債務が減少すれば、米国以外の国の通貨価値が上昇して、米国の通貨価値は下落します。それによって対外不均衡が解消するからです。為替相場は調整弁として働くのですから、為替介入などあまり効果はありません。
最近の報道によれば、米国の財政赤字は2011年度もGDP比8.6%に相当する1兆3,000億ドルで、前年度とほぼ同水準であるとされています。基軸通貨は、世界中で使われるものであるから潤沢でなければなりませんが、あまりに出回りすぎると価値が下がり、基軸通貨としての安定性を欠くことになります。米国はすでに財政破たんしており、現在のドルは基軸通貨としての資格を失っているわけです。過去の歴史(大英帝国時代のポンド)をみても、基軸通貨は長期間その地位にとどまることは難しいといえます。

本当に円高?

広告宣伝効果の大きさは?

現在の1ドル=70円代の水準を円高とみるのでしょうか。1995年当時の1ドル80円と東日本大震災後の1ドル80円は同じ円高なのでしょうか。そもそも輸出企業の現地生産比率が高まっており、貿易決済の円建ても増えている状況下で、両者を単純に比較して同水準の円高という表現には意味がないと思われます。
また、貿易においては、各国のインフレ率の相違を調整した実質為替レートでみないと本当の影響はわかりません。1995年から現在までの物価上昇率を調べると、米国は約40%上昇しているのに対して、日本はほとんど変わっていません。ということは、現在に置き換えると1.4ドルが80円に見合っていることになりますから、1ドル=57円ということになります。実質的には1995年当時よりもさらに円高が進んでいることになるのです。正常な為替相場は本来もっと円高になるはずですが、現在の1ドル80円程度で均衡しているということは、日本企業の競争力が低下したことを意味していると考えることができます。
したがいまして、現在の1ドル70円代の水準を過度な円高だからけしからんという発言をする方は、経済の仕組みをよく理解していないといわざるをえません。ドルが絶対という時代はとっくの昔に終わっているのです。

名目と実質の為替レート推移

円高は続く!?

筆者は、今後も円高が続くものと予想しています。第1に、ドル危機は解消する見込みがなく、基軸通貨としての地位の退場を求める圧力を市場が今後も発するものと思われます。
第2に、日本側の要因も関係してきます。東日本大震災後の復興資金需要が発生し、生産設備に制約(電力規制を含む)がある中で国債を発行すると、(国債の消化が困難になり)金利が上昇し、それが円高の方向に働きます。また、この円高を阻止するために金融緩和を行うとインフレ圧力が生じます。
第3に、対外資産が増加する一方の中国が自国通貨高を拒否する方針をとると、他の対外資産国の通貨が上昇することにより均衡が図られます。その点、日本の通貨が上昇する要因になり得ます。
ただし、円高要因と円安要因は交互に生じるため、為替相場が一方的に動くというようなことはありません。例えば、復興資金需要の発生は円高要因ですが、復興が終われば資金需要が減少し、その要因はなくなります。また、欧米の金利が上昇するようなケースでは、それが円安要因に働きます。
将来のことは正確には誰にもわかりませんが、現在の為替相場を異常なものととらえることができないのは事実です。前提条件が変わらず現在のまま推移すれば、中長期的には円高が進行する可能性が高いように考えられます。

円高は本当に悪いのか?

為替相場は、本来、その国の国力を反映するものです。経済力があって破綻する心配のない国の通貨は、借金漬けで経済が疲弊している国の通貨よりも高くなるのが当然です。ところが、日本においては「円高アレルギー」が浸透しているのも事実です。輸出産業が日本の高度成長を支えてきた歴史があるため、円高=輸出企業の採算悪化=日本の国力の低下という図式が頭の中に刷り込まれてしまっているのではないかと思われます。
確かに、かつて戦後貧しい国であった日本が経済的に立ち直り、物づくりを一生懸命行い、それを海外に輸出して大きな利益を得て、日本の国力は世界の最高水準にまでなりました。ところが、金持ちになった国が、依然として安い通貨を武器に海外にたくさん輸出して、一層国力を増すという図式がそう簡単に成り立たないのは当然です。
日本は、円高=悪いものという発想からそろそろ抜け出さなければならない時期にきているといえます。円高=所与のものと受け止め、その中で今後の日本にとって望ましい方向性を模索する努力をしていく必要があると思います。ただし、急激な円高は望ましくありませんから、市場が誤った方向に進む場合には為替介入にも一定の意味はあります。しかし、中長期的にみて少しずつ円高に向かうという流れについては、受け止める覚悟も必要かと思われます。

海外への生産拠点の移転が鍵!

海外への生産拠点の移転が鍵!

海外への生産拠点の移転が言われてから久しいですが、その必要性は格段に増したものととらえることができます。生産条件の効率化という点は何も変わっておりませんが、東北大震災後の電力規制により一層その必要性が増したといえます。
現在の日本経済は、総投資需要に対して生産設備等(震災による生産設備の減少だけでなく、電力規制も含めて)の総供給総量が不足している状況にあります。これを経済学の世界では「クラウディング・アウト(※)」 といいます。投資需要が増加しても、金利上昇による円高を招いて輸出を減少させたり、インフレにより消費を減少させたりするおそれがあります。すなわち、供給が制約される中で、新たな需要が他の需要を押し出す(締め出す)おそれがあるわけです。
このような供給に制約が生じている状況下において、生産拠点の海外への拡大は日本経済にとって大きなプラスになると考えられます。円高を強引に為替介入により阻止するという発想ではなく、製造業が海外に進出していくことが今後の日本経済の鍵を握ることになると筆者は考えます。

※「クラウディング・アウト」とは、政府が資金需要をまかなうために大量の国債を発行すると、それによって市中の金利が上昇するため、民間の資金需要が抑制されることをいいます。「クラウディング・アウト」の字義は、「押し出す」です。

財政債権の確立を!

日本の通貨は、海外からみれば日本国民が思っている以上に魅力があるといえます。物価も安定しており、国債の発行残高が多いことも、皮肉ではありますが結果としては流動性が高いという面につながっています。ただし、財政再建を進めていかないと、真の信頼性を得ることはできません。多額の財政支出をしながら、景気回復を果たせなかったこれまでの政治には、海外投資家は不信感を持っているに違いありません。円の国際化を進めていくうえでは、この財政再建の確立を避けて通ることはできないと考えられます。

ここで太田先生に質問!

ここで太田先生に質問!

1.阪神・淡路大震災と、今般の東日本大震災の時とでは、状況はどのように変わったのでしょうか?
2.経済成長の著しい中国ですが、ドルに代わって元が基軸通貨になる可能性はあるのでしょうか?
3.生産拠点の海外シフトの動きは、どのように日本に利益をもたらすのですか?

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