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ZEIKENPLUS 2012 Winter

会計士 太田達也の 5分でわかる! 税務・会計 円高は本当に悪いのか?~常識の中に潜む誤解を読み解く~ 新日本有限責任監査法人・公認会計士 太田 達也 先生の回答

Q1 阪神・淡路大震災と、今般の東日本大地震の時では、状況はどのように変わったのでしょうか?

今回の円高の要因は?
阪神・淡路大震災の時は、震災前1ドル100円だったのが、震災後に円高が進行し1ドル80円台になりました。ところが、その後円安に転じ1ドル140円台まで円安が進行していきました。
今回は、東日本大震災後円高傾向であり、円安に転じる可能性は低いと思われます。当時と現在で何が違うのでしょうか。
まず、 当時は、金利が低かったことが挙げられます。また、国債の発行額が現在よりも少なかった要因も考えられます。したがって、復興資金需要を国内の貯蓄である程度賄うことができたと考えられます。
さらに、米国の財政破綻の状況が現在より深刻化していることも関係していると思われます。

クラウディング・アウトの危険性!
現在は、欧米と日本の金利差はそれほどありません。また、国債の発行額が格段に増加しています。貯蓄率も当時ほど高くありません。クラウディング・アウトが起きる可能性が明らかに高い状況下にあるとみることができます。クラウディング・アウトにより、金利が上昇し、円高に進むバイアスがかかるという構図が当時と異なっているとみることができます。

(注)「クラウディング・アウト」とは、政府が資金需要をまかなうために大量の国債を発行することにより、市中の金利が上昇するため、民間の資金需要が抑制されることをいいます。「クラウディング・アウト」の字義は、「押し出す」です。

中長期的には円高か!?
為替相場は現在の金利差ではなく、今後予想される金利差に応じて動くと考えられていますので、先々をみて為替は反応していくのではないかと思われます。いずれにしても為替相場が中長期的に円高に進んでもそれに耐えるだけの体制を整えることが重要です。現在の供給制約の下では、生産拠点の海外移転によって、現地で生産されたもので海外ではなく日本国内の需要を賄うという構造が、今後の日本が生き残る道であると思われます。それにより急激な円高を招く可能性も低下すると考えられます。

Q2 経済成長の著しい中国ですが、ドルに代わって
元が基軸通貨になる可能性はあるのでしょうか?

中国の実態は?
中国の開放路線は大きな経済発展をもたらしました。中国の経済成長については、誰しもが認めるところと思います。しかし、中国の実態は本当のところどうなのでしょうか。想像以上の経済格差が存在しており、豊かな人はほんの一部に過ぎません。経済の発展に国民の生活がついていっていないのが実情といえるでしょう。
内陸部から都市部に仕事を求めて多くの人が流入してきましたが、1人っ子政策の影響で、需給がひっ迫しつつあるともいわれており、それに伴って労働者が権利意識を高め、また、国民の不満感情が高まりつつあるのも事実といえるでしょう。政府は、そのような不満感情が爆発することをおそれ、ネット上の閲覧制限などの対策が講じられているのも周知のとおりです。

経済運営の難しさ
中国経済の運営は、難しい岐路に立たされていると言っても過言ではありません。高い経済成長を維持していくうえで、インフレの予防のための引き締め政策をとっていかざるを得ません。ただ引き締め政策として金利を上げると、低所得者の生活が一層厳しくなります。低所得者が一斉に立ち上がる可能性がありますから、賃上げもある程度容認していかざるを得ないということになります。非常にバランスの難しい経済運営が求められるでしょう。

中国元はドルに変わる通貨にはならない!
現在の中国の為替制度は、いわゆる通貨バスケット制といわれるもので、主要通貨の平均に対して変動を一定の枠に抑える方法が採用されています。もちろん主要通貨としてはドルのウェイトが高いものと思われます。今後、プラザ合意後の日本のように、変動相場制に移行するときに人民元高が起こるのかどうかが興味深いといえます。ただし、先の綱渡りの経済運営からも、現在の人民元には、そこまでの安定感はないとみることができます。
ドルの凋落と入れ代って人民元が基軸通貨になることはないと思われます。

Q3 生産拠点の海外シフトの動きは、どのように日本に利益をもたらすのでしょうか?

国内の生産では利益は上がらない!
これまでの日本は、国内の物づくりで輸出による利益を上げてきました。ただいくら努力して優秀な製品を輸出しても、円高で帳消しになる宿命にあるといえます。日本の対外資産が増加して、米国の対外債務が増加すれば、ドル本位制のもとでは円高になり、対外不均衡が調整される方向に働きます。対外資産国である日本の保有するドルの価値が円高によって目減りすることにより、ドル本位制はかろうじて維持されているというのが実情です。

海外で稼いだお金を日本に還流させる?
海外で稼いだお金が日本に還流されるかどうかが、今後の日本の繁栄の鍵を握っていると思われます。海外で稼ぐ手段は十分に考えられます。新興国に対する投資(出資)や技術の供与により利益を上げることは十分に考えられ、それが今後の日本のとるべき方向性であると思われます。ただし、問題は海外で稼いだお金が日本に還流されるかどうかです。海外で稼いだお金が現地に留まっている限り、日本経済は停滞し続けると考えられます。
平成21年度税制改正により、外国子会社からの受取配当金について95%益金不算入とする措置が講じられましたが、これは非常に好ましい改正であると評価できます。さらに、日本に還流しやすい(税制だけでなく、税制以外の)政策を行うことにより、一層還流されることになると思います。ただし、日本に還流しても有力な投資先がないというケースもあり、まだまだ海外に留まっているお金は多いのが実情です。

日本のとるべき方向性は?
現在は、高度成長時代の輸出に頼る経済構造ではなくなりました。いくら輸出に注力しても、一層の円高が進むことになるでしょう。今後の日本のとるべき道は、日本の優秀な技術力と資本力を海外で活かすことであると思います。新興国への技術供与、投資によりリターンを得る。そのリターンを国内に還流させる。このような循環が生まれることにより、日本はまだまだ中長期的に繁栄することになると思われます。
貿易収支の黒字が減る分については所得収支の黒字でカバーできるはずであり、その場合は経常収支を維持できます。近年では、所得収支の黒字が貿易収支の黒字を大きく上回っています。所得収支の黒字の要因は多額の対外資産ですので、過去に輸出で稼いできた蓄積であるとみることができます。この点、この多額の対外資産を今後どのようにうまく運用するかが日本の命運を左右します。その点、新興国への投資は、うま味のある運用先であるととらえることができます。

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